蜃気楼
風の強い晴れた日
水平線に蜃気楼があらわれる
海の遠くから白装束の一群が歩いてくる
一陣の風が吹き
木立が激しく揺らいだとき
ひとりの老人があらわれた
編み笠で顔を覆い 汚れた法衣はちぎれ
深い皺とこけた頬が
長い年月を忍ばせている
千年の年月をかけ
この世を巡礼しつづけている
口元をむすび土地の光景を凝視めていた
途切れた電線
曲がった軌条
折れた鉄骨
ひび割れた石棺
崩れた木箱
ただ
上にひろがる空はどこまでも青く
この世のできごとが一筋の白煙のように
吸い込まれていく
まるでこの世はうつし世
風が止むと
老人の姿は消え
葉陰に深い沈黙だけが残されていた
荒れた海の
蜃気楼のなかを
白装束の一群が遠ざかっていく
かくり世の方へ